第47回東京都知事杯フィールドフォーストーナメントの準々決勝は、前年度優勝のレッドサンズほか、全国出場経験のある強豪が順当に勝利した。敗れたうちの2チームは、5年生で編成するBチームで、ともに先制するなどキラリと光るものがあった。また大田区代表の美原アテネスは、チーム最高の都8強へ躍進、父親監督は息子が卒団後の来年度もチームを率いるという。
(写真&文=大久保克哉)
※記録は編集部、本塁打はすべてランニング
■準々決勝
◇7月14日
◇スリーボンドスタジアム八王子
【第1試合】
(文京区)
レッドサンズ
012113=8
200100=3
国立ヤングスワローズB
(国立市)
【第2試合】
(東久留米市)
小山ドラゴンズ
000021=3
100100=2
船橋フェニックスB
(世田谷区)
【第3試合】
(板橋区)
高島エイト
01300=4
00010=1
美原アテネス
(大田区)
※5回時間切れ
【第4試合】
(江戸川区)
ジュニアナインズ
000012=3
02200X=4
船橋フェニックスA
(世田谷区)
ジュニアナインズは1971年の創立時から小野監督が率いている
高校野球の甲子園でもそうだが、トーナメント大会のベスト4を決める準々決勝は実力伯仲で、好勝負が多いと言われる。
今大会のベスト8も豪華な顔ぶれだった。「小学生の甲子園」全日本学童大会に出場経験があるのは5チーム。そのうち船橋フェニックスAは、6月の東京予選を初制覇して2年連続の全国出場を決めている。ほか4チームも直近10年内で全国出場しており、実力をキープしている強豪だ。
全国とは無縁の3チームのうち、2チームは未来のある5年生軍団。残る1チームは、創部58年目で初の東京8強入り。近年の上昇カーブと、ごく自然なスポーツマンシップやマナーが目を引く6年生13人のチームだ。そしてこの3チームが、期待値とフレッシュ感に違わぬ輝きを放った。
レッドサンズの四番・高橋勇人は3安打2打点、三塁打2本と大暴れ
見事に機先を制し、大きな見せ場をつくったのは国立ヤングスワローズ Bだ(詳細は最下部「ピックアップ」参照)。1回に右中間を破る先制2ランを放った三番・中澤諒陽を筆頭に、どっしりとした体格でパワフルな選手も複数。それより際立ったのは、絶対服従のような堅苦しさと無縁の、自立している野球だった。
ただし、昨夏全国3位のレッドサンズは何ら動じていなかった。先制された直後の2回に杵渕祥介のスクイズですぐさま1点を返すと、3回以降も足技と小技を絡めながら効果的に毎回の得点。まさしく貫録勝ちだった。
船橋Bの先発・前西は4回まで無失点と好投した
船橋フェニックスBは、中盤戦まで試合をリードする大健闘だった。1回に四番・中司慧太がレフトへ先制タイムリー。その1点を守ってきた先発右腕の前西凌太朗が、4回には自らのバットで2点目を叩き出した。
対する小山ドラゴンズは終盤に底力を発揮した。こちらは2018年に全日本学童初出場。現6年生たちは、2年前の「ジュニアマック(4年生以下の都大会)」で3位の実力派だ。一番・肥沼健優のソロアーチを皮切りに5回、6回で3点を奪って逆転勝ちした。
船橋B(上)と小山(下)は僅差の好勝負を展開
高島エイトは平野竜都、鈴木煌大、今清水悠と左、右、右の継投で完勝。仲里奏亮の左中間三塁打など、飛び出したタイムリー3本はいずれも長打だった。
4回裏に1点を失ってなお、二死二塁のピンチ。ここで中堅手の中村凛太朗が、痛烈なライナーをダイビングキャッチする美技で流れを相手に渡さなかった。
高島は先発の平野(上)が3回途中まで無安打無得点。4回には中堅手・中村(下中央)がファインプレー
「あれはすごいファインプレーでしたね」と、真っ先に相手を称えたのは、敗れた美原アテネスの佐藤浩亮監督(=写真下)だった。
「ウチも守備を重心してますけど、大会終盤でもああいう良いプレーが出るチームがさらに上にいくんだなと、ひしひしと感じました」
佐藤監督は長男とアテネスに入った後、指揮官を托されて9年あまり。当初の目標「都大会出場」をクリアする回数も徐々に増え、現6年生の三男・拓の代は2年前から「都大会での勝利」が大目標に。昨年は区大会敗退も、これを機に練習する選手たちの目の色が変わったという。
今年は先の全日本学童都大会で1勝、今大会は3勝でチーム最高成績を都8強に更新した。
「全日本でも旗の台クラブさん(4位)と1点差で良い勝負をさせてもらいました。今日は百戦錬磨の高島エイトさんに力負けでしたが、子どもたちはミスもなく、力を出し切ってくれたと思います」(同監督)
四番・捕手の田中瑛太を中心とする堅実な野球が花開いた形。対戦相手を尊重し、好プレーをその場で称えるなど、指導陣だけではなく選手にも保護者にも浸透しているスポーツマンシップも印象的だった。佐藤監督は末っ子の三男が卒団してもチームに残るという。
「ウチは5年生が0人。来年は今の4年生たちをまたしっかり育てていきたいと思います。もちろん今の6年生たちとも最後までしっかりやります」
美原は複数枚の投手を擁して初の東京8強まで勝ち進んだ
準々決勝のラスト。第4試合は新人戦と全日本学童の「都2冠」の船橋フェニックスAが、辛くも1点差で逃げ切った。
2回に半田蒼真が、3回には竹原煌翔がそれぞれ2ラン。投げては先発右腕の木村心大が3回1安打無失点と好投し、そのまま押し切るかに思われた。
しかし、相手はそのまま引き下がるようなヤワではなかった。ジュニアナインズは船橋より5年早い2018年に全日本学童に初出場し、一気に8強まで勝ち進んだ激戦区・江戸川区の古豪だ。
「ウチの子たちはあまり巧くないけど、練習量でここまで来たから東京No.1を食ってやろうと思っていた」と語る小野峰夫監督は、1971年の創立時から率いる大ベテラン。5回に佐藤隼翔の右前打で1点を返すと、最終回には亀山遥翔の三塁打に敵失などで3対4と迫る。
さらに二死一、二塁と、かえれば逆転となる走者まで出したが、2冠王者はエース格の右腕・松本一を投入して最後のアウトを奪った。
6回表、ジュニアの四番・亀山が右中間への三塁打にバッテリーミスで生還
―Pickup Team―
3巡目の指揮官が手塩で5年。「大人が邪魔しない」野球の集大成序章
くにたち
国立ヤングスワローズ
[国立市]
準々決勝4試合の中でも、一番の見応えがあったのは第1試合の3回表だったかもしれない。
先制されていた前年王者のレッドサンズが、四番・高橋勇人の中前打で2対2とし、なお二死一塁。ここで実現した5年生同士の″一騎打ち”が熱かった。
10球ガチンコ勝負
右打席には門田亮介。マウンドには国立ヤングスワローズBの主将でもある香川幹大。門田はバットを、香川は左腕を、それぞれ存分に振って渡り合った。
左本格派の国立・香川(上)と、バットコントロールが巧みなレッドの五番・門田(下)。ともに5年生とあって、今後も名勝負が期待される
ボール2から何と5球連続ファウル。いずれも置きにいったボールではなく、小手先で当てにいったスイングでもない。守る国立のベンチからは「絶対、引くな!」「いけよ!」という声が飛んでいた。
そしてボール球とファウルを1球ずつ増やして迎えた、フルカウントからの第10球目。ライト前へクリーンヒットを放ったレッドの五番打者に軍配は挙がった。その門田は5回には決勝打となる中犠飛を放っている。
「実は去年のジュニアマックの準決勝で、レッドサンズの門田クンにサヨナラヒットを打たれたんですよ。それでピッチャー陣も意識し過ぎちゃったのかな…」
同じ打者に返り討ちにされた形だが、振り返る杉本敬司監督(=下写真)は納得の表情。敗北直後は多少の涙もあった選手たちだが、ベンチを引き上げる足取りは軽かった。
充実の6イニング
来たる2025年度は、このチームが大激戦区の東京を引っ張ることになるだろう。そう思わせる要素にもあふれた6イニングだった。
1回表は相手のタッチアップで先制を許したかに思われたが、直後の三塁アピールプレーで得点無効と3アウト目が認められる。するとその裏、一番・香川主将が左前打から二盗を決めると、三番・中津諒陽が右中間へ先制のランニング2ランを放つ(=下写真)。
2対4とされて迎えた3回裏には「2点差なんてすぐだよな、でもまず1点!」(杉本監督)の指示通り、清水升爲の三塁打と吉川陽壱の右前打で3対4に。4回には適時失策もあったが、続くピンチを本塁好返球と適切なカバーリングにより脱してみせる。
その野球やスタイルが最も顕著に表れたのは、一番から始まる5回の攻撃だった。
二飛と内野ゴロ、たった2球で二死となる。だが、続く中澤はベンチを振り返りもせず、1球目のストライクを当然のように強振した(結果はファウル)。その後、良い当たりの内野安打で出塁すると、初回に中越え三塁打を放っていた四番・山崎央月はボール球には決して手を出さずにフルカウントから四球を選んでいる。
結果、そのイニングは無得点だったが、超アグレッシブな好球必打が見て取れた。しかも各打者はいちいち指揮官を見たりしない。ある意味、完成されていて自立している。目の前の勝負を個々に楽しんでいるようだった。また、各選手の耳へ届けられる指揮官の声は、明るくて前向きで短くて具体的なものに終始していた。
「そんな顔してたら打てねえぞ!」「ナイスバッティング、ノリノリでいこう!」
3回には4-6-3の併殺を決めた(上)。6回無死二塁のピンチでは二塁手・清水翔爲がゴロを横っ飛びで捕ってからの一塁送球でアウトに(下)
6年生ならまだしも、5年生たちがここまで主体的にやれるチームはそうそうない。聞けば、国立はAからDまで4チームが活動しており、それぞれに配した指導陣が選手と一緒に繰り上がるシステム。OBでもある杉本監督は、指揮官としてこれまでに2つの世代を送り出してきた。
「今の5年生たちで監督として3巡目。ほぼほぼ、1年生、2年生からみさせてもらっている子どもたちです」
自省と教訓から3巡目
今の立ち居振る舞いからは想像に難いが、指揮官2巡目までは昔ながらの高圧的な言動や、厳しい指導もあったと杉本監督は打ち明ける。やがて、保護者やスタッフからの厳しい非難も増えるとともに、自省をしながらコツコツと改善の方向へ。
「難しいことですけど、選手たちが楽しくやるためにどうするかを考えて。僕ら大人たちが子どもたちの邪魔をしないように、当たり前のことを100%当たり前にやれるように。今はそういう指導を心掛けています」(同監督)
6月の全日本学童都大会は、AチームがV候補の一角も破るなどして8強入り。5年生のうち10人がベンチ入りし、7人が試合でプレーしていたという。
総じてプレーに迷いがなく、ベンチは明るい。見ている部外者さえ笑顔にさせるような好感度だ
下級生が固まってこういう活躍をすると、鼻が伸びてきたり、一塁まで抜いて走ったりするのが小学生だが、彼らBチームには気配すらない。自分たちで主体的にやる野球に夢中で、果敢で全力の真剣勝負が楽しくて仕方がない。感じ取れるのはそういう類いのものだ。
今大会の準々決勝の前日には、新人戦の支部大会を制して都大会出場を決めている。もしかすると「全国」という大きな目標が選手たちから聞かれるかもしれないが、指揮官はこう言って自らを諫めた。
「子どもたちにそういうものがある、口から出てくるとすれば、私はまずその邪魔にならないようにしたいですね」
今と未来にあるべきチーム。ひとつの理想郷が、ここにもあった。